2021.10.01 犬の代表的な心疾患
僧帽弁閉鎖不全症 もしくは 僧帽弁逆流症 ( MR ; Mitral Regurgitation )
犬の心疾患として、動物病院で最も多く遭遇します。
僧帽弁は左心房と左心室の間にある弁で、血液を一定方向に流すために働きます。何らかの原因で変性を起こすと、弁がしっかりと閉じなくなり、血液の逆流が発生します。アメリカ獣医内科学会(ACVIM)では、本疾患の重症度を以下の様に分類しています。
ステージA | 現時点で問題となる異常は認めないが、将来的に心疾患の進行リスクが高い動物。 (小型犬全般、キャバリアなど) |
ステージB1 | 心雑音は聴取されるが、X線もしくは心エコー上、心拡大や房室拡張など明らかな異常を認めない。 |
ステージB2 | 心雑音が聴取され、X線による心拡大、および心エコーによる明らかな血行動態の異常(逆流)を伴う。 |
ステージC | 過去あるいは現時点で、構造的心疾患による心不全の臨床徴候が認められている。 |
ステージD | 標準的な心不全の治療では効果が乏しく、慢性心臓弁膜症による末期的な心不全徴候が認められる。 |
原因
多くは加齢によるものです。弁自体や弁を支える組織が加齢とともに異常を起こすことが原因となります。
先天的なケース、他の心疾患から二次的に発生するケースもあります。
好発犬種
小型犬全般
特にマルチーズ、シーズー、チワワ、ポメラニアンなど
中型犬
柴犬、キャバリア・キングチャールズ・スパニエル
臨床徴候
初期は無徴候ですので、動物病院で心雑音を指摘され、発見に到る場合がほとんどです。
病状が進行すると咳、運動不耐(疲れ易さ)などが認められるようになります。
重症化すると呼吸困難、肺水腫などの心不全徴候を起こすようになり、非常に危険です。
治療
内科、外科、両方の選択肢があります。
内科的な治療は、疾患の進行に伴い、心臓の負担を軽減することが主目的です。初期は血管拡張薬を用いる のが一般的で、心不全が進行すると強心薬、利尿薬などを併用します。上述のステージCとDでは、重症化によって、お薬の種類が増えるため、服用が難しい子 にはデメリットとなります。
外科的な治療は、一部の大学病院など二次診療施設で行われています。手術の成果によっては大幅な軽症化が期待できます。実施施設が限られること、手術費用が高額であることなどがデメリットです。
拡張型心筋症 ( DCM ; Dilated Cardiomyopathy )
大型犬の心疾患において比較的多く認められます。
うっ血性心不全を伴う心室の拡張、心筋の収縮力および拡張力の低下が特徴です。
雌雄差では、男の子に多く発生する傾向があります。
原因
個体ごとの原因を追究することは非常に困難とされています。
一般的に考えられている原因として、遺伝、栄養欠乏、代謝や免疫の異常、感染、中毒などが挙げられます。
人では20~40%が遺伝性とされ、犬の場合も一部は遺伝性として考えられています。
好発犬種
大型犬全般
アイリッシュ・ウルフハウンド、ドーベルマン・ピンシャー、ニューファンドランド、
グレート・デーン、エアデール・テリア、ポーチュギーズ・ウォータードッグなど
中型犬
アメリカンおよびイングリッシュ・コッカー・スパニエルなど
臨床徴候
初期は無徴候で経過します。 左心室機能の低下に伴い、咳や運動不耐、呼吸困難、肺水腫などが起こります。
心不全の重症化や不整脈を伴う場合、死亡率が非常に高くなります。
治療
血管拡張薬、利尿薬、強心薬などを用いて内科的に治療を行います。
不整脈が認められる場合、抗不整脈薬を用いることもあります。
コッカー・スパニエルなどでは必須アミノ酸であるタウリンの欠乏が疾病発生に深く関わることが報告されており、これを内服薬として使用します。